QPON生産管理トヨタ生産方式・かんばん方式

活字になった、かんばん方式

「かんばん方式」がはじめて文書化されたのは本社工務部がまとめた「かんばん事例集」で鉛筆書きで青焼きコピーをして配られたものでした。
それから数年して、トヨタ技術会が「自動車の知識」に掲載してはじめて活字になりました。
その主な内容を以下に紹介します。


かんばんはどのようにして考えだされたのですか
かんばん方式の誕生

当社で行っている生産方式はムダの徹底的排除の思想に基づいて造り方の合理性を求め、生産全般をその思想で貫いてシステム化したものである。
その方式をトヨタ生産方式と呼んでいる。
トヨタ生産方式はジャストインタイム(必要なものを必要なときに必要なだけつくる、はこぶ)自働化(異常があったら止まる、止める)という2本柱で構成され、かんばん方式はジャストインタイムを実現する手段として考え出された。
かんばん方式がスーパーマーケット方式と呼ばれているのはスーパーマーケットからヒントを得て考案されたからである。
スーパーマーケット方式の運用の手段として品番、その他仕掛上の必要事項を標示した「かんばん」を道具として使用したことからこの生産管理方式を「かんばん方式」と呼ぶようになった。
この方式は本社工場で改良を繰り返し昭和37年頃に広く全工場で実施するようになった。

後工程引取り

生産現場では売れ行き、不良、故障、欠勤、欠品などのため生産計画通りいかないのがいわば当たり前である。
生産計画を各工程に指示し前工程が後工程へお届けする方式では、いらないものまでもらってしまいがちになりジャストインタイムの実現は難しい。
そこで色々な種類の品物を店に並べておき顧客は欲しいものを買っていく。
店の方は買われた分だけ補充するというスーパーマーケット商法をジャストインタイムの思想と結びつけ、後工程が必要なものを取りにいき、前工程は引かれた分だけつくるというシステムができた。
即ち、まず運搬経路をお届け方式から引き取り方式にして後工程へ欲しいだけとりにいく、その時運びすぎをおさえるために札をつくる。
つまり札が空いた分だけとりにいけということである。
そして前工程ではつくりすぎをおさえるために札をつくり、引かれた分だけ札が外れ、札が外れた分だけつくれということである。
この札を「かんばん」と称しこの後補充方式を「かんばん方式」と呼ぶ。

日程計画表の否定

後工程が前工程に取りにいき、前工程は引き取られただけつくれば前工程では日程計画表は不必要になる。
むしろ不必要というより邪魔であって計画表の追放ということになった。

従来は、図2のように前工程にもすべて計画表を出してしたが、この前工程の分をやめて最終工程だけに出そうということになり、前工程はかんばんのはずれた分を補充していこうというわけである。

前述したように生産現場は売れゆき、不良、故障、欠勤、欠品などで計画通りなかなかいかない。
そういうところで各工程が計画表だけでやっておればバラバラの動きになり、一工程が故障をおこせば、そこでものが沢山たまってしまう。
そうなると各工程は計画を守るため人や設備を余分にかかえて対処しようということになってしまう。
かくして計画は最終工程だけに出し後はそれに合わせればいいということになった。
計画表がなくなると各工程は計画で拘束されないため、あるレベル内での生産変動には自動的に対応していく、つまりかんばんは生産の微調整の手段として力を発揮する。

かんばんと運搬、段取り替え

この場合運搬は必要な分(かんばんの外れた分)だけ運ぶことになるので、小刻みな運搬をしなければならない。
運搬効率だけを考え、まとめて運ぶと各工程はたくさんの手持を持たなけばならなくなってしまう。
従ってあちこちのかんばんを集め混載という形をとれば、運搬ロスもなく小刻みな運搬(引取り)を実現し、少ない手持でつながっていくということができる。
また加工工程は小刻みに引取られた分だけつくる(かんばんも小刻みに外れる)ので1回のロットは小さいのである。
従って段取り替えの時間の短縮が必要になる。
即ち小刻みな運搬と段取り時間の短縮の二つあって始めて、少ないかんばんで回転し各工程は少ない手持で対応ができるようになる。
各工程のストアは間口は広く(種類だけ必要)奥行は浅く、を実現しなければならない。

かんばんと平準化生産

自工程の都合のいいように、ある種類のものをまとめてつくり前工程にその分取りにいくということでは、前工程はまとめた引きをされても欠品をおこさないために設備、人員を余分にもたなければ対応できなくなる。
そこでかんばん方式では平準化生産、平準化された引きが必要になってくる。
だから社内のつくりが平準化されないと外注かんばんは適用できない。
現在、当社では電算機を利用してあらゆる角度から平準化をはかった生産計画を作成しているのもこのような理由からである。

かんばんのねらい(改善の道具としてのかんばん)

かんばんのルールの中で @かんばんのないときは運ばない、つくらない。
Aかんばんは現物に必ずつけておく、 B100%良品でなければならない。
Cかんばんの枚数を減らしていく。
の4点を実行していくことによって、かんばんは仕掛けの道具から改善の道具として力を発揮していく。

Aによって生産現場でもっともロスが多い“つくりすぎ”を防止できる。
“つくりすぎ”は過剰人員、過剰設備、過剰在庫を生むもっとも始末の悪いムダである。
Bによって不良がでると後工程が止まったり不良品が自工程にたまったりして、その工程の問題がクローズアップされ再発防止の対策をせざるをえなくなり、不良品を出さない工程へと改善がされていく。
そこで不良品が出たら自働的に機械がまた作業が止まってしまう自働化の考え方が登場してくる。

Cによってクッションが少なくなり不良品、機械故障があると後工程がすぐに止まることになる。
そこに不安定要員をつぶすニーズが生じて不良品絶滅、不良作業の標準化、段取り替え短縮など工程の安定化、合理化への努力がされていく。

以上のようなルールを守ることによってかんばんが原価低減を進めるための生産現場管理の道具としていきてくる。
これらのルールを守らず「かんばん」を導入しても百害あって一利無しである。
そのためにはどんな困難をも克服して、ルールを守っていくことが必要になってくる。

かんばん方式では平準化が前提であるといいますが

平準化とは

すべての工程で、量が平均化されるためには、単に最終組立ラインの量を平均にしただけでは不十分で あり、種類についても平均化しなければならない、これを「平準化」とよんでいる。

平準化の必要性

現場において、生産計画がばらつくこと、(例:今日1,000個、明日100個、月の前半10,000個、
後半ゼロ)は、計画通りの生産ができず、欠品をおこす原因となる。
よしんば、生産できたとしても、大変なムダを含んだもので、原価の高いものになる。

なぜなら、設備、人、在庫、その他生産に必要な諸要素は、まずピークに合わせて準備されるためである。
特に、後工程引取りの原則を通じて、同期化が徹底している生産工程の場合、後工程の引取る量のバラツキが大きければ大きいほど、前工程は余分の人と設備をかかえ込まざるをえない。
ここに「平準化」の必要性がある。

計画の平準化

計画部署が一番配慮しなければならないのは、計画を平準化するということである。
当社では、電算機を利用して、あらゆる要素を考慮にいれて、可能な限りの角度から平準化をはかった生産計画を作成している。

月度計画(「自動車の知識」P244参照)についていえば、例えば1月度生産の車については、10月に車種から車型さらに細部仕様にわたり「内示」され、12月の中頃には、その生産内容が確定される。
これによってラインは、能力の見直し、カンバン回転枚数の設定が可能となる。

つまり、かんばん方式は、引取られたものを造るといっても、明日のことは全くわからないというのではなく、「平準化」いとう大前提の上に、月間レベルのおおよその必要数があってはじめて成立する。

月度計画に基いて、今後はとことん平準化された日程計画が立てられる。
生産指示は、この日程計画を更に平準化して並べた順序計画として、最終組立ラインの一ヶ所にのみ送られる。

平準化生産

かんばんの外れた通りに生産するということは、どの工程においても、常に必要な時に必要なものを必要なだけ造れる体制を要求される。
そのためには、生産量のバラツキと、品物の種類のバラツキをなくすことが必要となる。
次に平準化生産の具体的方法について述べる。

(1)小ロット化

ロットを大きくすることは前後の工程を混乱させ、過大な在庫と数多くのムダを発生させる。
しかし、鋳物・鍛造・プレス・熱処理工程は、ロット生産のために同期化と本質的に合わないところがある。
だから小ロット生産で、なおかつ可働率を維持させなければならないという難問題に直面する。
ところが、短時間で段取り替えができるようになれば、小ロットで生産しても問題はなく、同期化が可能となる。

プレスを例にとれば、段取り替え前準備をする、調整作業を無くす、作業を標準化するなどによって、段取り時間を3分にまで短縮してきている。
このような段取り時間の短縮のことをシングル段取りといっている。

(2)1個流し

物の流れをよくすることは平準化生産にとって大切である。
なぜならば、物を停滞させればさせるほど生産も運搬もまとめるようになり生産のリードタイムも大きくなる。
そのため、機械工場では、機械を機種別に配置するのではなく、工程順に並べている。
こうすると、半完成品の造りすぎを押さえることができ、部品をできるだけ運ばないいで、その場で早い時期に製品にすることができる。
これを1個流しという。

シングル段取りとはどのようなことですか

シングル段取りとは

板金プレス、鍛造プレス、工作機械、樹脂成形機など、いわゆる汎用機では、型および刃具の段取り替えが必要となる。
従来は、せっかく段取り替えを行ったのだから、少しでもたくさんの製品を加工しておきたいという考えがあった、一度にたくさんの製品を加工するため、大きな製品倉庫が必要となり、リフトカー、運搬台車、トラックなど多くの運搬道具・人がいることになる。
更に、製品が造られてから使用されるまでの期間が長いため、製品に錆が発生し、錆とりを必要とするなど雪ダルマ式にムダが発生してくる。
生産の単位を小さくするためには、この段取りを替えを短かくする工夫をしなければならない。
昭和40年代の始め頃、プレスの断取り替え時間は2時間とか1時間とか“時間”単位であったものを1ケタ(シングル)“分”でやれるようにと目標を決め、改善を推進した結果、現在多くの部署がこれを達成しており、更にこれを縮小して小ロット生産にチャレンジしている。

シングル段取り達成の方法

1.内段取り作業を外段取り作業へ移行

段取り作業には、型の準備、型の付属装置の取り外し、型締めボルトのゆるめ、型交換ボルトの締付け、付属装置の取り付け、加工済み型のあとかたづけなどの作業があるが、型を準備しておくとか、工具類を機械のそばに置いておく作業は、機械を止めずにできる仕事であり、これを外段取り作業という。
一方、型締めボルトをゆるめるとか型交換作業は、機械を止めなければ行えず、これを内段取り作業という。
段取り替え時間を短縮するには、まず内段取り作業と外段取り作業を区分して、内段取り作業を改善して外段取りで行えるようにし、機械の停止時間を少なくしなければならない。
具体例を次に示す。

型替え時、プレスラインの後方にある型置き場よりクレーンで型運搬をしていたが、機械の横に型準備場を設け、外段取りで次に加工する型を運搬し、内段取りでの型運搬時間を短縮した。



型替えに必要なスパナなどの工具類、ジョー、フィンガなど自動化専用部品、段取り作業標準書を機械の横に外段取りで準備する。

2.調整作業の廃止

段取り作業のなかにもダイハイト調整とか、製品取り出しのエアブロー調整、型位置決め調整というように調整作業が多くある。
この調整作業は作業者の判断が入り、熟練度によって作業時間が大きくバラツクばかりでなく、品質面でも安定せず、不良品をつくるもとになる。
段取り時間を短くするためには、現在行っている調整作業を標準化し廃止していかなればならない。

型の厚みが型ごとに違っているため、型交換の際、プレス機のスライド高さを調整していたが、型の上下面に所定の厚みの鉄板をつけ型厚を統一し、スライド調整を廃止した。

製品取り出しにエアブローを使用していたが、図3のように吹き出し口をボルトで止めているため、段取りのつど製品の流れ具合を見ながら角度を調整していたが、吹き出し口を型ごとに専用化し、エア配管の差し込みにクイックジョイントを使ってワンタッチでエア配管の装着ができるようにした。

プレス機のベッド上に型を置く場合、決められた位置に置かないと、型締めボルトがベッドの溝に入らず、前後左右に位置調整しなければならない。
ベッド上に型のガイドおよび当て決めストッパを設けて、この調整作業を廃止した。

3.並列作業の実施

型を交換する時、加工済みの型を出してから次の型を入れるという具合いに、いわゆる棒つなぎの仕事をいかに並行作業できるように改善するかが、時間短縮のポイントになる。

加工済み型と次の型が同時に交換できるように、型と型をつなぐ連結棒をつけた。

型交換時、ベッドがプレス機の前側に出る機械は、プレス機間のコンベアを横に移動する必要 ある。
従来、コンベアを移動するのにクレーンを使用していたため、クレーンにてコンベアを移 動してから、型交換をしていたが、コンベアの移動のレールを敷いて、型交換している間に、作 業者がコンベアを手で押して移動できるようにした。

シングル段取りの効果

このように段取り時間を短縮し小ロット生産を可能にすると、前述した製品ストアの縮少、在庫管理費の削減のほかに大きな効果が現れてくる。
例えば調整作業を廃止したため段取り直後のトラブルが少なく、生産性も始めから安定したものが得られ、また作業者の“カン”に頼ることが少ないので品質も安定し、不良率の低減にもつながる。

“イ”(ニンベン)のついた自動化とは

ジャスト・イン・タイムと自働化はトヨタ生産方式の二つの柱いわれている。

最近は、機械設備が高性能になり、しかも高速化しスイッチを押せば自動的に品物はできる。
ところが高速機械設備でなにかの異常が起きた場合、例えばドリルが折れたり、パンチが欠けたり、あるいはクランプが不十分のまま加工すると、不良品を造ることになり、高速であるがために、気がつくまでに不良品が大量にできてしまう。
不良品を造ることは、材料と電気をムダに使い、機械は単に動いたというだけて、付加価値を高める仕事をしたことにはなら?ず、いわゆる働いたことにはならない。

不良品を造ってはいけないということで、機械設備に異常があったら、機械設備を停止する人(機械設備の見張り番)をつけて生産したのでは、生産性はあがらず原価が高くなってしまう。
このような機械設備を当社では、ニンベンのつかない自動機械といっている。

自動機械に人がつくかわりに、ドリルが折れたり、クランプが不十分であるという異常が起きたら、 自動的に機械が停止する工夫をすれば、人が常時機械設備の見張り番をしなくてもよい。
このように機械設備に異常があったら自動的に停止する工夫のしてある機械設備をニンベンのついた自働機械と呼んでいる。

ニンベンのついた自働化の考え方は、豊田佐吉翁の自働機械の発明を源としている。
佐吉翁の自働織機は、経糸や縦糸が1本でも足りなかったり、切断した場合、すぐ機械が停止するようになっている。
当社の機械設備もポカヨケ・フルワークシステムなど機械設備メーカーより購入した自動機にニンベンを付ける創意と工夫がなされている。

しかし、材料・機械設備に起るすべての異常の判断を機械設備に組み入れようとすると、非常に高価な機械になると思われる。
例えば、自働織機に糸の太さの異常を判断させたり、あるいは糸が切断したことを判断する部分が故障しているかどうかを判断させることは難しいと思われるし、機械も高価になってしまう。

当社の機械設備も、通常起こりやすい異常に対してはニンベンをつけているが、あるいはまだついていないところには、工夫する必要があるが、自働織機の例のように機械設備に判断させにくい異常に対しては、人の判断が必要となる。
しかし見張り番をつけたのでは生産性はあがらない。
そこで当社では、機械設備がある決められた個数を加工すると、異常があるかも知れないということで、自動的に機械設備を停止させ(ニンベンのついた自働化の考え方)アンドンを点灯して人を呼び、機械設備、製品に異常がないかどうかを、人に判断してもらう。
品質チェック、刃具交換、油の点検・補給、その他設備の異常の有無を調べ、異常があれば原因を除去し、異常が無ければ機械設備を再起動する。
この時重要なことは、異常かどうかを人が判断するのであるから、人の判断に誤りがないように、判断基準と判断のやり方をしっかり決めておく必要がある。

以上のように、ニンベンのついた自働化を行うということは、良品のみを造り、後工程には不良品を流さないことであり、品質管理の原則である「品質は工程で作り込む」ということにつながる。

前述の機械設備の自働化の考え方は、組立ラインのように人が作業するラインにも、あてはめて考えている。
すなわち組付コンベアでは作業者自身が、自分の行っている作業で「これはいけない」あるいは「不良である」と思った場合、作業者自身にコンベアを停止してもらうことである。
不良品、不合格品を造ることは仕事をしたことにはならない。
すなわち働いたことにはならないという考え方である。
不良品を組付けたり、作業遅れでラインを止めると損失が大きいということで、部品を組付けずに流すと不良の車ができる。
不良車をお客様に売ることはできないので組付ラインの後に検査員や手直し班がきてしまう。
これは自動機の見張り番と同じことである。
作業者自身に異常を見つけてもらうためには、管理、監督者はしっかりした標準作業を作り、作業者に標準作業通り仕事をしてもらうことが大切である。
作業者は標準作業ができない時(異常があった時)にラインを停止してもらえばよい。

ラインが止まったら、管理、監督者はすぐその原因を取り除き、改善して、二度と同じ原因でラインが止まらないよう(作業者に止められなくてすむように)、再発防止を行い、標準作業に組み込む。
これを繰り返すことによって、ラインストップは少なくなり、良い製品が安く造れるようになる。
このようにニンベンのついた自働化を推進することによって、機械設備を例にとると、正常な時は機械設備が働き、異常の時に人が異常処置を行ういとう、異常管理のやり方が可能になる。
そして、どこに異常があるかをアンドン、かんばんなどにより目で見てわかるようにしておけば、異常の所へのみ行けばよいので、1人の人間が多くの自働機を、その管理下における。
ここに自働化の一つのメリットとして、当社独特の管理方法の一つである「目でみる管理」の考え方が生まれ、発展した。

能率向上とは、どのようなことをいうのですか

効率と能率

最初に効率について考えてみる。

生産の効率とは、「ある製品について、製品になった(あるいは工程を進めた)労働力とこれを造るために出された労働力との100分比」のことである。

生産の効率が50%であるというのは、作業者が出した労働力のうち、半分しか製品を造るのに(あるいは工程を進めるのに)役立っていないで、残りの半分はムダな力を出したということである。
また、この数値が大きくなればなるほど、生産の効率は高いという。

作業というものを考えてみると

作業=正味作業(付加価値を高める作業)+ムダ

ということになる。

従って、効率の高い生産というのは、作業者の出してている労働力の大部分が正味作業になっているということである。

次に過去に比べて生産性がどれだけ高められたかをはかる「ものさし」として用いられるのが能率である。

すなわち改善の努力をし、その結果生産効率が高くなり、従来より少ない工数で数がでるようになったり、必要数が増えた時でも、同じ工数で増加数をつくれるようになった時、改善前に比べて能率が向上したという。

真の能率と見かけの能率

一般的に能率には2種類ある。

次のような例を考えてみよう。

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10人で100個/日 改善 10人で120個/日(20%の能率向上)

ちょうどこの改善を実施したのが増産期と合致して今月より120個/日の生産計画となった。

この場合は2人増員しなければならなかったところを、改善により人数を増やさずに生産を続けれたので、もうけにつながる改善となった。
では生産計画が100個/日で変わらなかったり、あるいは減産で90個/日の生産計画になった場合はどうであろう。
この時も能率が上がるからといって毎日120個ずつ造ったとしたら製品は、1日20〜30個ずつ余ってくる。
これは、材料費、労務費の先食いだけでなく、この在庫を管理するために、パレットや置場所や工数が増え、会社としてはかえってマイナスになってしまう。
このように、必要数が変わらなかったり、減産しているときに、量を増やして能率向上をはかるやり方をトヨタ生産方式では、見かけの能率と呼んでおり、最もやってはいけないこととしている。

この場合には
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10人で100個/日 改善 8人で100個/日
あるいは 7人で 90個/日
というようにしなければならない。
このように、同じ能率向上といつても
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10人で100個/日 10人で120個/日

8人で100個/日

の2通りのやり方がある
どちらも2割前後の能率向上であるが、どちらのやり方をとるかは、生産台数(必要数)がいくらであるかということで決まってくる。
すなわち、生産台数が大前提であることを忘れてはいけない。

言いかえると能率向上をさせる目的は原価低減にあるのだから、売れるものだけを、いかに少ない人数で作るかということになる。

台数を増やして能率を向上するやり方は比較的容易にやれるが、人を減らして能率を向上するやり方は、これに比べて数倍難しい。
だから、どうしても能率向上というと必要数を無視して、前者のやり方をとる傾向がでてくる。

しかし、いくら困難であろうとも、原価低減に結びついて能率向上=“真の能率向上”をやらねばならない、むろん、真の能率向上がやれるようになっておれば、増産期に能率向上させることは、大変やさしいことである。

ムダ排除よる工数低減とはどのようなことですか

作業の中身の分析

工数低減活動を進めていく上で、最も大切なことは、作業そのものの内容を細かく観察し、、作業者の動きのどの部分が、本当に付加価値を高めることに役立っているか、分析してみることである。
どんな現場でも、よく観察すると、作業といわれるものは、多かれ少なかれ、図1のように分けることができる。

(a)ムダ

作業をしていく上でなんら必要でないもの。
したがって、はっきり認識さえすれば、すぐに省け るものである。
例 造りすぎ・手持ち・意味のない運搬(中間製品の積み重ね、運搬の二度手間、持ちかえなど)

(b)付加価値のない作業

付加価値はないが、今の作業条作の基ではやらなければならないもの(これも本当はムダと考え た方がよい)これを省くためには、作業場の条件を部分的に変えないといけない。
例 部品を取りに歩く・外注部品の包装をとく・大きなパレットから部品を小出しに取り出す・押 切りボタンの操作など

(c)付加価値を高める正味作業

付加価値を高める作業とは、加工(変形・変質・組付けなど)することである。
すなわち、部品 や製品を造るために、粗材や各製品などの加工対象物に手を加えて、付加価値を与える作業で、こ の比率が高いほど作業効率はよいといえる。
例 部品を組付ける・粗材を鍛造する・鉄板ををプレスする・溶接する・ギアを焼入れする・ボデ ーに塗装するなど。
さらに現場では、このほか標準作業以外の例外的動作として、ちょっとした設備・治具の不具合 の修正とか、不良品発生の手直しなどがあり、付加価値を高める正味作業の比率は、意外に低いこ とがわかる。
(これ以外は、全て原価を高める要素ばかりである)
工数低減とは、このようなムダ、付加価値のない作業を付加価値のある作業に変えることである。

“ロット作業”から“ながら作業”へ

一般に、プレス・鍛造・鋳造などの粗形材加工の分野では、加工設備の都合、エネルギ費、加工条件などの制約から、部品ごとにあるまとまった量を一度に加工してストックしておく、ロット作業が行われている。
しかし、もし上記のような制約がざまざまな工夫により、考えなくてもよくなけば、必要な時に1台分づつ、ファイナルラインに合わせて(すなわちジャストインタイムに)造ることが 、最も工数もその他の費用(ストック用のパレット・場所など)も少なくてすむ。
最近になって、従来の考え方を破って、今まで粗形材工場や、部品加工専問工程で、ロット作業していた部品を、組付を行うメインラインで1台分づつタクトに合わせ、メインライン組付けをしながら加工する例がでてきた。
このように、メインラインの作業をしながら、必要部品を1台分づつ加工する作業を“ながら作業”という。

例 プレス部品の場合。
プレス部品をプレス工場内でなくボデーのメインラインで、簡単で安価な装置(プレス機の場 合、秒単位で1個加工するようになっているが、ながら作業の場合1タクト内、すなわち数十秒 から数分の間に、ゆっくり加工すればよいので、設備も容量の小さなものですみ、工夫すれば安 価でしかも故障の少ないものができる)を使い、メイン作業の合い間に装置に材料を取付け、 起動ボタンを押しておけば決められた仕事をして一回りしてくると加工が完了しているように なっている。
このような装置を“ながらプレス機”といっている。
このほか、スポット溶接、部品塗装、かしめ、打ち込み加工など、多くの分野で、ロット作業から、“ながら作業”への転換を行い、前工程から最終工程まで通したムダの排除による工数低減が行われている。

少人化とはどのようなことをいうのですか
自動化と省力化

設備の自動化を行うということの本来の目的は「人のやっている仕事を機械に置きかえて、その分の人を減らす」ということである。
ところが、自動化する方は、人の仕事の中で、先ず機械の動作に置きかえやすい所を自動化する傾向にある。
ワークの取付け・取外し・送りなどの自動化である。
しかも、自動化された機械や装置の欠点は、自分で判断してストップしないというところにあり、不良の大量発生や設備・治工具・型などの破損を防ぐためには、どうしても人の監視が必要となる。
従って、自動化しても人は減らず、ただ大部分の人手の仕事が機械に置き代わるだけであり文字どおり「省力化」ができたに過ぎないことになる。

このような自動化 省力化 では意味がない。
自動化を効果あらしめるためには、機械が自分で異常を判断して止まるようにしなければならない。
ここに自働化の考え方が登場する。

自働化と省人化

自働化になれば、監視する作業は要らなくなり、結果として「省人化」できる。
自動化は省力化だれであるが、自働化は省人化できる。
だから、自動機に自分たちの知恵をつけて自働化しなければならない。
さらにこの考え方を機械・設備だけでなく、人が作業しているラインにもあてはめて異常があったらラインを止めるようにしなければならない、このようにして、自働化省人化の考え方が確立され。
当社の増産体制の中で、大きな成果を上げてきた。
ところが昭和48年に起こったオイルショックで、それまで順調に伸び、増産の一途をたどってきた当社も昭和49年には減産のやむなきに至ったが、減産時になると、増産のときにはなかった新しい問題が生じてきた。

少人化の考え方

それは自働機のほとんどが、定員制になっていることである。

完全な自働機=無人機は別として、材料・部品の投入だけ人手の作業がいるような自動機はフル生産したとき2人で動かしていたのに50%減産になっても1人で運転できない。

やはり同じように2人、たとえば大型自動機の入口と出口に1人ずつ要るのである。
このように自動機に別の面から見ると、定員でなければ運転できないという欠点を備えている。

この定員制を破ることが少人化の考え方である。
この考え方も機械だけでなく、人が作業しているラインにも適用されている。
すなわち、5人のラインで、生産が8割になれば、4人でもやれるようにしておく。
また別のケースとして、1人休んだら4人でも造れるようにしておく、ただし量は8割になる。
このためにはレイアウト・多能工化のための作業訓練・設備の制約の改善など、数多くの改善の積み重ねが普段からなされていなければならない、以上のように、少人化というのは、1人でも2人でも何人でもやれるラインまたは機械を意味しており、もともと定員制の考え方を否定するところからスタートした考え方である。
自動車のように景気の善し悪しにより売れ方に大きな影響を受ける業種では月々の単位でみれば、車種ごとに大幅な生産の増減があり、この時に少人化されてないラインでは、常にピークになった機種なり、工程に人員を投入しないと生産量が達成できず、しかも減ったラインではそれに応じて人が減らせないので、多め多めの人を抱えてしまうことになる。
このような企業体質では、これからの厳しい時期を乗り越えていくことは不可能だと考えねばならない。

具体的に少人化に対応しやすくするためには、レイアウトや設備設計上の面で、次のようなことを考慮すべきである。

(1)はなれ小島(工程が分散し作業者がお互いに助け合うことができない位置にある)を なくし、助け合いができるレイアウトにすること。

(2)勘による作業や長年の経験がないとできない作業は治工具の工夫などにより、誰にでもやれる ように作業の標準化をしておくこと。

(3)異常があったら自動停止する自働化設備にし、しかも異常停止が生じないように再発防止を行い、可動率を100%に近づけること。

(4)現場では、作業のローテーションを行って、どの作業でもやれるように日頃から訓練しておくこと。

(5)異なった工程でもやれるように訓練と機械の取扱いの標準化を進める 多能工の育成

少人化ラインであるかどうかの見分けは、現在作業している人員から1人あるいは2人と少なくしていっても、生産性を落とさず、作業ができるようになっているかどうかで判断できる。


設備を使う上でどのような点に配慮されていますか
設備の可動率は100%が望ましいということは、トヨタに限らずどこにもいえることですが、特にトヨタ生産方式ではこの設備の可動率100%を前提にしているため、トヨタ生産方式を推進し原価低減活動を行っていく上で、設備の可動率を100%に保つ努力は欠くべからざる活動の一つといえます。
そしてこの可動率を100%に保つ活動が「保全」である。しかしながらこの保全という言葉は、使う人によりそれぞれ内容を異にしているように見受けられ、また予防保全とか事後保全などという変な言葉の出現で本来の保全の意味をいたづらに理解しにくくし、何をしなければいけないかという、保全本来の目的をあいまいにしているきらいがあるので、トヨタ方式における保全の考え方、やり方といったものについて事例を折り込みながらふれたい。

保全とは

保全とは、人間の体でいえば健康を保つための保健である。
予防保健などと言う言葉はなく、保全とは予防を指している。
また事後保健などという言葉も無い。これは人間の体でいえば治療であり、設備でいえば事後保全とは修繕にほかならず、保全に失敗したから修繕という事態が起こるのである。
このように考えると設備とは自発的に壊れるものではなく、保全に失敗する、つまり壊すものと考えるべきである。そしてこの壊されないための工夫というものは、設備メーカーに期待できるものではなく、設備を使う者が一丸となって取り組むべきものであり、この努力の積み重ねが同じ設備を購入して同じ生産活動を行っても、各工場間に大きな差が生じることになるわけである。

給油と設備清浄

給油と設備清浄は保全の中できわめて重要な部分を占めているといえる。
しかしながらこの一番重要なことを外注に任せたり、他人任せにしている会社や職場をよく見かける。トヨタ方式ではこれを特に戒め設備を使う者全員で取り組むように改善している。
生産追われる中で、タイミングを外すことなく、より小人数で確実に行うということは、口でいうほど簡単なことではないが、各職場で工夫を重ね少しづつ理想に近づけるのが現状である。

定期交換の考え方

一般的には刃具にしろ、消耗部品にしろ使えるだけ使ってだめになったら交換する方が経済的とされているが、ギリギリまで使うことにより生じる悪さを考えるとむしろ逆であり、トヨタ方式においては壊れる前に定期交換する方をとっている。
そしてなん点もの交換サイクルの異なる部品を忘れずに交換するために様々な工夫がされている。 図1のようなやり方は一つの例であり、全ての部品が巧みに管理されているわけではないが、定期点検や故障の観察結果をもとに一つ一つ固めているのが現状である。

修理と修繕

壊さない努力と同じように同じ失敗を繰り返さないことも非常に大切なことである。
ここで修理とか修繕という言葉が誤って使われているものをよく見かけるので言葉の意味を解説し考え方を整理しておきたい。
修理とは、理にかなったようにする(直す)ことであり、原因つぶして再発防止するような処置をいい、一方、修繕とはつくろうことであり原因を追求せずに壊れた部品だけをとりかえるようなやり方をいう。
この区別を十分理解せず、修理という名前の基で修繕を行っているのをよく見かける。
修繕つまいり、つくろっただけでは、また同じ所がトラブルを起こす恐れがあり、これでは真の意味での再発防止ができたことにはならない。
修理は不具合の起きた所を単に直すだけではなく、その原因を調べ二度と同じトラブルが起きないようにすることである。
保全作業にたずさわる者はもちろん、機械を使用する側も修理と修繕の違いを十分認識し、修繕ではなく修理を行うよう常に心がける必要がある。

故障しにくい設備

故障しにくい設備には、それぞれの会社および職場で再発防止を通して得た技術の蓄積があり、その中から優秀な事例を紹介することもそれなりに意味はあるが、一般にこれらの事例は固有性の高い話が多く、なかなか参考にしにくいと思われるので、ここでは汎用性がありまたよく見逃されてしまいやすい所に焦点を絞っていくつか紹介したい。

(1)リミットスイッチの使い方

リミットスイッチが確実に作動しなかったり、中に油が入り接点不良を起こすトラ ブルはよくある話ですが、リミットを交換するだけの修繕に終わらせず、しっかりし たドクやストライカを介するやり方に直しり、油入りについては防油タイプに変更す とか、カバ―を工夫するとか、もっと進めて油のかからぬ所にリミットスイッチを移 してしまうとことや、リットスイッチを使わずに同じ機能を果す工夫も必要である。

(2)連結と連動

自動で動くメカニズムは大別して「連結機構」と「連動機構」の2つに分類できる が、上下・左右・回転などの独立した動きをリミットスイッチを頼りに電気的に継ぐ 連動機構に対し、カム・ギヤ・リンクなどを巧みに組み合わせ、必要な動きを機械的 に継ぐ連結機構の方が信頼性は数段高いといえる。

(3)スピードとタイミング

1分に1個加工すればよい設備に、目にも止まらぬスピードで動くシリンダがつい ていたり、早やばやと後退を開始して必要以上に後退するユニットなど、おかしな動 きをする設備をよく見かけるが、設備についてもジャスト・イン・タイムという考え 方は大切なことであり、速すぎるということが設備にとっていかに好ましくないこと であるか、ということを十分認識する必要がある。

(4)調整機構

およそ設備と名の付くものには、多かれ少なかれ調整機構がついている。確かに摩 耗したところをその都度交換するのでなく、せり出して補正する機構があれば便利に 違いないが、これを正しく使うには二つの重要なポイントがある。
その一つは基準面 であり、もう一つは調整の固定である。基準面のない調整はたとえ必要な精度が出し えたとしても、それは砂上の楼閣にすぎないといえる。次に調整の固定であるが、調 整できるということは裏を返せばズレやすいということであり、これが故障の原因に なることが少なくない。
調整なしで使えることを考えることが大切であることは言う までもないが、必要な調整についても固定するという考え方が必要である。
図2はス トッパボルトの固定をロックナットだけでなカラーを使って確実に固定した改善例で ある。

(5)ムダな動き・ムダな設備

機構的に意味のない動き(ムダな動き)を放置したり、メリットのない自動装置の 故障対策に工数をかけることはつまらないことである。
当然のことであるがその設備 を使わなくてすむならば故障は問題にならない。
さらにいうならば、ちょっとした工夫でいらなくなる設備はたくさんあるといえる。 購入したからには使わなければ損で あるという誤った考え方を捨て、むしろつまらぬものを購入したことを反省し、使わ ずににすませる工夫をすることも故障対策の有力な手段である。