盲導犬ユーザーのコーナー

釣りバカ・ユーザー
 
私は途中失明です。
過去にはいろいろな趣味を持ちながら、好きなことをしてきました。
その一つが魚釣りです。
今までは魚釣り仲間と釣り船で敦賀湾の沖合いに出て、真鯛釣りやヒラマサ釣りなどに行っていましたが、だんだんと視力の低下に伴って、その仲間は私の安全を気を使って徐々に誘わなくなりました。
遊技船などチャーターをして船頭さんに任せて釣りだけを楽しめばいいのですが、しかし、遊技船を貸切でチャーターする甲斐性も余裕もなく、それに知らない釣り人に迷惑をかけられず、自分に対しても気を使いながら釣りをしたところで楽しくはないですし。
また、遊技船となれば人命を第一に置きますから、みすみす危険を伴なうと思う者には、乗船を簡単には許可しないです。
いくら自分は大丈夫だと思っていても、他の方はそうは思わないです。
 釣り仲間と乗船したとしても、確かに沖合いの釣りは危険を伴います。
遊技船のようにいろいろな自動操作を備えてはなく、乗船してから釣りを始めるまでには仲間といろいろ協力し合って手動作業を行うのですが、「漁師は板一枚地獄」と言われるように一瞬のミスも許されません。
べた凪(穏やかな波)では魚の食いつきも悪く、適度の荒波の時に出港しますから、船室もなく上下左右に揺れる、手摺もないデッキで波しぶきをかぶりながらの乗船です。
そのようなチャレンジや危険を伴なうまでして、船釣りに行くのかな?と思われる方もいるでしょうが、それはそれは、日本海の大海原では、波の音や航海している船の音や海猫の鳴き声だけで、常に音を頼りにしている自分の耳からのストレッサーを安らぎに変えるひと時でもあり、大物を釣り上げた爽快感は常に前向きにと言い聞かせている自分の前進する根性の維持と励みになっていました。
 そのダイナミックな手ごたえの爽快感を、少しでも自分のできる範囲を活かして密かな満足感を得ようとして、まずはじめに釣り竿を自作で製作しました。
小物を釣り上げても手ごたえを得ようと、如何に細くて、振り出し寸法が長く、綴じる寸法がコンパクトなものをと、渓流竿にガイドを付けてリール竿に改造したりしました。
また、見えないとつい釣り針が自分の洋服に引っかかり、魚を釣り上げるどころか人間を釣るはめになったり、また、おまつり(釣り糸がもつれる)になることが多くて、そうなると見えていたら簡単に解けることでも解くのに時間がかかるので、回遊魚を狙うときは取り替えるのが効率的です。
 というのも、こんな経験があるのです。
ある時、自分の“世界の窓”のところに釣り針が掛かってしまい、それを取っているとき、近辺の方々は「これは大物やぁ〜!」ビチビチと音がする!「ワァイ〜また釣れたぁ〜」「ワァイ〜ワァイ〜、これも大きいぞ!また釣れたぁ〜!」と、騒いでいるときに自分は?(^^;「自分のこと、あの人あんなところをこそこそして、何をしているのだろうと思われないだろうか?」とか「こんなところを釣って、何をしているのだぁ〜」と、心でつぶやきながら必死で外し終えて、さあ釣ろうかぁと仕掛けを海に投げたときにはもう遅し!魚は何処かへ回遊してしまいました。
情けないやら悔しいやら反省・反省の複雑な心境でした。
 それからは、市販されているものを次々と使用するのは値段も高くつくので、自作で仕掛けを結んだ方が半分以下の価格で済むことにもなり、その分スペアーを沢山用意して、トラブルを起こしたとき直ちに交換するようにしています(ちなみに、針結びとか枝スの仕掛け作りには、電動機器が市販されていて簡単に結ぶことができます。
ユニバーサルの為のものではないと思いますが、自分にとっては何よりのユニバーサル機器です。
) 釣り場所は自宅から歩いて約20分の敦賀港岸壁です。
風向きや潮の流れによって3ヶ所のポイントを決めまして、最初はパートナーのグローブと何回か散歩を兼ねて岸壁へ出かけながら、グローブを海側に付けて徐々にポイントに近づき、そのポイントで海との1メートル手前のところでグローブに遮断するように教えました。
これで大丈夫だと感じてから、本格的に釣りに出かけることにしました。
自分が訓練を受けました中部盲導犬協会は、パートナーを常に左側にするのではなく、左右どちらかでハンドルを持って歩くのが基本です。
たとえば駅のプラットホームでの歩行と同じく、線路側にパートナーを付けているように海側にグローブを付けますから、ルールを無視しない限り岸壁から海へ落ちることはありません。
また、左手でハンドルを持って岸壁を海に向かって行くと岸壁と海の境で右へ進行しますし、その反対側の左へ進行するときは右手でハンドルを持ちます。
 そのような数々の利点もありますが、両手持ちの場合、常に両手をフリーにしておかねばなりません。
もちろん個々によって違いますが、釣りにはいろいろな道具を持って行きます。
自分の7つ道具として、@釣竿、A釣り餌、B仕掛け、C折りたたみ椅子、D敷物やタオル、Eビックやバケツ、Fクーラー(クーラーの中に、氷、ビールなどの飲料水)。
このような荷物を手で持つことができない為、リュックを背負い、リュックに入らない物は肩に掛けます。
釣竿の綴じる寸法をコンパクトにしなければならないのもこのためです。
そして、どちらかの手でグローブのハンドルを持って早朝出かけるのです。
それはそれは、自分の姿を思うと、過去のマイカーで魚釣りに出かけていた頃を思い出すと、本格的で歩く姿は「浜ちゃん」も「スーさん」も顔負け(?)です。
俳優の西田敏行さんに「こんな釣りバカもいるよ」と言いたいくらいです。
(笑い) それでは、岸壁や波止場釣りでの簡単魚釣りの一例をご紹介します。
サビキ仕掛け6号(300円)、釣竿は約3.5メートルのリール竿(特価品約2000円)とリール(特価品約1000円)、釣り餌は網エビ(500円)(括弧内はその釣具の価格です)。
この釣りは、仕掛けに6本又は8本の枝針があり、その下に篭を付け、その篭に餌を入れますので、針に餌を付けなくてもよく、海中へ沈めるだけです。
手ごたえとして、魚が多くいるときはその8本の枝針全部に魚が掛かり、釣り上げるときは力を要します。
対象魚はアジ、カマス、サヨリ、カワハギ、イワシ、メバル、その他の小魚。
皆様の中には魚釣りに興味をもたれている方で、波止場の投げ釣りゲームを楽しんでいる方もおられるでしょうが、本場は手ごたえがあって格別楽しいですし、なにより新鮮なお魚で一杯は格別ですよ! ダイナミックなことはできなくとも、自分のできる範囲で、自分が思っていることや行動に対しては妥協は極力最低限に感じるように、盲導犬グローブと共に、未練を捨てて毎日の生活に前向きにと言い聞かせ前進する自分の励みと自己満足の人生道中を歩みたく思っています。

盲導犬情報 第43号(2004年10月)(2004年10月31日 発行)から転載
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